Academy-OB Choral Diary(練習日記)

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各パート順に、団員が持ち回りで書いています。
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2024年9月21日

檸檬と桃(注釈の多い練習日誌) 
記事の編集
レモン色の各駅停車が、お茶の水駅のホームにすべりこむ。俺の頭の奥であの歌声が鳴り響く。
「喰べかけのレモン、聖橋から放る。各駅停車のレモン色がそれをかみくだく〜」(注1)

数分後、両国駅。車窓からは、風にはためく色とりどりの力士のぼり旗と新鋭!大の里フィーバーに揺れる国技館。
昨日は、大谷翔平50-50の快挙に日本中が揺れた。深夜、NHK「異例急きょ再放送」視聴で寝不足…気づくともう平井駅。九月も下旬だというのに、猛暑。練習場に向かう商店街に秋の気配は…ない。

欠席者多数の小松川区民館ホールには、秋風ならぬ「すきま風」。
効きすぎの冷房と古い空調の騒音の中で、偏屈な俺はそこに「小さい秋、見つけた」(注2)

北條ボイストレーナの効果的なストレッチで、肩甲骨周りの筋肉をほぐす。
顔の表情筋をめいっぱい動かすメソッドは、「冷徹無表情が売り」の俺には…つらい。
「わ、た、し」の発音を使って喜怒哀楽のニュアンスを込める感情表現技を伝授…なるほどと感心。もちろん、すぐには習得できず。
「しゅ」を口を尖らすかたちで、呼吸筋との連動スタッカートを繰り返す…キスをせまるようで恥ずかしい。
それでも「息を流して、遠くに虹を掛けるように、柔らかな響きで」を目指す50分間のトレーニングは続いた。

さあ、「ぜんぶここに2」だ。
まず、さくらももこの詩をどう捉えるか。
いたいけな少女の、可愛らしい言葉の羅列?
いやいや、稀有な才能を持った詩人が、子供の視点をかりて人生の深淵な真実に言及?
とんでもない、ちびまる子のノンシャランなキャラをシニカルに変容させた言葉遊び?(注3)
わけ知りは言う。言葉をそぎ落とし、さらにそぎ落として、読む側の解釈の幅を増大させた確信犯さ!
そして、我が尾崎マエストロは、「チョコレートをおねだりする幼女を見る親の視点」でと言及。
『はて?』(注4)

相澤直人の作風は。
芸大で作曲科5年・指揮科3年の8年を費やしただけあって、リディア旋法、ミクソリディア旋法(注5)などの楽理的知識とコンピュータを駆使した理詰めの作風。
特にハーモニーにテンションコード(注6)を多用し、音楽的ウィットを醸し出す。
基本的に、情に流されず、カタルシスをもたらすことを目指さない!自称おしゃれな作風。
『なるほど』(注7)
これが、情感や感性だけでモノにしようとする俺たちロートル合唱人には、敷居が高い。
が、相澤氏の音楽と指導法を信奉する信徒たちは、多い。(注8)

この詩と作曲家の世界観の相克は、「いっけん簡単そう、でも歌うほどに迷宮に迷い込む」という状況を生み出す。
歌えば歌うほど「つまらない」と連呼する某メンバーの胸に去来する思いは、これだ。
もちろん、音程とリズムに格闘中の某パートは、もっと手前の迷路で逡巡(しゅんじゅん)中。

長くなったので、以下簡単に…
「まるい星」の8分の6拍子は、丸を描くリズム感で捉えよ!
「ビール工場の」シュワシュワは、あのキスを迫る口とがらし「しゅ」を使うこと。
ここで、気分をかえて「クリスマス・イヴ」(注9)の初見大会。…トホホ。
次回までにちゃんと見てきてねと、マエストロ。差し替え部分のコピー譜も配布。
「自分のほんとう」の「二分音符はノンブレスで次につなげる」指示はカラヤン風レガート(注10)の模倣?
カンニングブレスで対応も、これは老いた肺にはつらい苦行。
「これは合唱祭まで」とのマエストロの謎の発言。その後はどうなるの?
「ぜんぶ」ラスト2小節のテノール、何十回か目のトライアルでぴたりと揃う。
「今、初めてみんなと目が合いました」とマエストロ。今まではどこ見てたの?君たち。

この類(たぐ)いの、自分にとって理解しがたい音楽を「腑に落ちる」ようにする術(すべ)として、以下ひとりごと。
既視感のある言葉、ちょと気に入ったサウンドの箇所から、呼び起こされるイメージを膨らませて、自分なりのストーリーを構築。馬齢を重ねたとはいえ、過去の自らの膨大な体験のストックから、思い当たるシーンを想起して、パラパラ漫画のように連動させて物語を描き、強制的に「腑に落とす」。わかるかなあ?わからねえだろうなあ!
でも楽譜の向こうに見えてくる新たな景色を探す旅は、今の俺には必要なのさ!
それができなければ、
「聖橋の上から、かじりかけのモモ(ももこ)を放り投げ」ればよい。
この歌の最後のフレーズはこうだ。
彼女が言う「消え去る時には こうして静かに堕ちてゆくものよ」(注1)と。
(匿名希望者、またの名を、帰って来たLB 記)

注1 「檸檬」シンガーソングライターさだまさしが1978年にリリースしたアルバム『私花集』の収録曲。
注2 作詞:サトウハチロー 作曲:中田喜直 歌い出しは「だれかさんが、たれかさんが見つけた」。
注3 さくらももこの詩画集「まるむし帳」(ぜんぶ2の出典)は、ほのぼのしながら本質を突く世界観や、漫画の扉絵などにも深淵な想像力が垣間見られ、ちびまる子の生活感あふれる話とはかなり距離がある。
注4 日本初の女性弁護士・裁判官の三淵嘉子をモデルにしたNHK朝ドラ『虎に翼』の主人公が理不尽な状況下で発する名台詞。
注5 曲集p32(奥付)引用
注6 基本的な三和音や四和音に比べ構成音が増えることで響きが複雑になり、それらの和音が持つ緊張感から  テンションコードと呼ぶ。
注7   前述のNHK朝ドラ『虎に翼』の主人公の夫が発する口癖。同意とスルーの使い分けが見事。
注8 あい混声合唱団、女声合唱団 ゆめの缶詰、かわさきスコラ・カントールム、n-tone等々の常任の合唱団のほか、膨大な数がアップされているYoutubeの多くのチャンネル登録者たち。
注9 1983年に発表した山下達郎12枚目のシングル。その後JR東海のクリスマス・エクスプレスのCMなどに使われ、クリスマスソングの定番となった。
注10  ヘルベルト・カラヤンが手兵ベルリン・フィルをフルトヴェングラーの呪縛から解くために強要した弦に対するテヌート&レガート&スラー。音の切れ目を感じさせない弓使いを多用し、滑らかなサウンドを構築したが、賛否両論あり、福永陽一郎をはじめ、これを嫌う人も多い。



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