OB合唱団・練習日誌
団員が持ち回りで記入しています。
 2026年1月17日(土)   戯曲「練習日誌:やさしくない魚」
戯曲「練習日誌:やさしくない魚」
とき:2025年1月17日午後1時 ところ:小松川区民館 
登場人物とその性癖
 A :極右(急進的保守で音楽原理主義者。差別的で秩序を重んじる)
 B :中道(人当たりは良く、穏健。極端を好まない)
 C :リベラル(何より歌うことが好き。自由を大切にし、多様性を尊重する)
 老人:周囲から畏敬の念を持って遇されているが、ある意味頑迷な回顧主義者
 若者:相対的に若いと形容せざるを得ないが、実際には心身とも、かなりのおじさん

序幕 ウォームアップ
軽い体操に引き続き、音階で母音発声練習
三人のモノローグ
 A「体を動かし声を出し始めのこの時間帯は、どの部位をほぐせば、より良い声が出るか、しっかり自分の体と心に向き合うのだ」
 B「あーあ、年とともに体は硬くなるわ、声は出しにくくなるわ、なんか切ないなあ」
 C「体を動かし声を出しながら周りを見渡し、出席メンバーの顔ぶれを確認。それぞれの様子を観察して仲間の状況を把握するするところから、私の合唱活動が始まるのだ」
  「おっと、ベースはおとなしい!声が出ていない!と指摘された。欠席者なし・全員集合なのに、そう言われたんじゃ、俺たちパワー不足か。もう少し頑張らねば」

カデンツァでピアノを弾かず半音上げてとの指示
心のつぶやきは続く
 A「ちぇ!ちっともハモらない。和音の中の自分の位置と役割を大半のメンバーが理解していないし、そもそも半音の幅が各人バラバラじゃねえか」
 B「うーん、声を出すって気持ちいいなあ。結構ハモってるんじゃない。ピッチ浮き気味のソプラノは、ただ支えが足りないだけで、きっと、そのうち良くなるよね」
 C「ハーモニーって感覚で捉えるもんだよな。なかなか決まらない和音がピタッとハマった時は本当に心が震える。そのために、われらベースは上3パートをしっかり支えよう」

第1幕 3箇所に分かれてパート練習 ベースはロビー(近所の消防署のサイレンの音が鳴り響くと一瞬ギクリ)
新実徳英作曲 川崎洋の詩による五つの合唱曲「やさしい魚」の3曲(感傷的な唄、ジョギングの唄 やさしい魚)のはじめての音とり練習
現役時代この曲を歌った23期より若い世代と、今回が初めてのオールドエイジ。いわば二極分化の状況下、老人と若者とのやりとり

老人「ステージで歌ったことのある者は、アドバンテージがあるんだから、ワシらロートルをしっかりリード&サポートしてくれよな」と、高らかに宣言
若者「そうは言っても、あれから数十年。この厄介な音程とリズムの記憶はだいぶ薄れているので、多少のミスリードはご容赦。お手柔らかに。」と、少し予防線をはる
老人「それにしても、この変拍子と、妙な跳躍音程は若者向き。ワシらにはハードルが高い」と、言わずもがなの愚痴
若者「YouTubeにベースの音とり音源もあるし、活用したらどうです」と、控えめな助言
老人「現代生活必須のITが厄介で、その無機質な電子音のメロディが生理的に受け入れ難く、聞いていてもちっとも腑に落ちないのじゃ。Old soldiers fade away老兵はただ去りゆくのみなのか…でも、確かその前に、never dieがついていたな。ただでは死ねんぞ!」と、今回から参加したジーマ氏に敬意を表して不慣れな英語を口走る
若者「漫然と聞いていてもダメですよ。難しい箇所を見定めて、そこを繰り返し聞き、歌い、また聞いて…と体に染み込むまで時間をかけることです」と、少し強めのアドバイス
老人「そういえばワシらの若い頃は、週5日のパート練習と週4日のアンサンブル。そのほか学生ホールで先輩からの個別指導。運動部のように稽古したものじゃった」と、遠くを見るような目つきで、脳内回顧モードに入ってしまう
若者「野球の千本ノックみたいなものですか。それって苦行ですよね、音楽とは対極にあるようにも思えますが」と、ちらっと釘を刺す
老人「苦難の末に、至高の音楽体験が待っていたのじゃ。あの成功体験と感動が、こうして今も、OB合唱団に参加しているモチベーションとも言えるのう」と、我にかえる
これを聞いていた三人が口を開く
 A「アプローチはひとさまざまではあるけれど。アンサンブルで他のパートと合わせる前に最低限、自分のパートの音程とリズム、言葉に託した詩人の思い、作曲家が楽譜に記したデュナーミクとアゴーギクを読み取っておかなければならない。その上で、他のパートとの関係性も考察しておく必要がある。練習に来さえすれば、有能な指導者が手取り足取り歌えるようにしてくれると、手ぶらで参加するなどもってのほかだ」と、自論を展開
 B「かたいこと言うなよ。みんなそれぞれ大変な思いをして時間を作り、世間のしがらみを逃れて、歌うことに安らぎを求めてやってくるんだから。多少の不備は互いに補いあうのが、合唱の魅力でもあるんだからさ。今日、楽譜を渡されて、ほぼ初見。遅れをとってもしょうがないさ。さ来週リベンジしようぜ」と、やさしく励ます
 C「そうそう。一人で音楽するのと違って、合唱ってさ、多人数が集まるための会場確保から始まって、さまざまな手配や連絡、金銭の管理や運営のための多くの人手があってはじめて歌うことができるわけじゃん。声の良し悪しや音楽知識の多い少ないだけでは測れないメンバーの存在価値に、ちゃんと認識と感謝をしなくちゃね。」と、本質をズバリ
 B「それにしても、練習中の俺らのリーダーに、しばしばツッコミを入れるあの先輩、なんかウザイ!」メンバーに同感の頷き多数
 C「ひとさまざまさ、その多様性を受容することこそ、わがベースの伝統。より良い音楽作りのための多少のギクシャクには寛容こそが最高の美徳だぜ」周辺から拍手が起こる
 A「このちっとも”やさしくない魚”を歌えるようになっている者は、どのようにして歌えるようになったか、その方法をみんなと共有すべし」と、今度はしごく建設的意見
すると普段、自分のことは控えめな彼が、語り出す
 C「ぼく個人的には、調性を調べて移動ドで階名読み。反復リズム読み。時々鍵盤を叩く。楽譜の注意箇所に色鉛筆でマーキングなどなど。コツコツ繰り返して少しづつ積み重ねているよ」
一同「なるほど」「成功に近道なしか…」見えない同感の波がヒタヒタと、みなの心に打ち寄せていく ー幕ー 

第2幕 午後3時15分。ホールに戻りアンサンブル(広い空間に旧式エアコンの騒音が鳴り響く)
譜読み段階にもかかわらず、あの巨匠ピアニストが伴奏を請け負う。彼も初見のようだが、すぐにそのフレーズに”ミューズ(音楽の女神)”が宿りはじめる。ヨッ!さすがプロフェッショナル。
さらに、合唱メンバーと指揮者とのやりとりなど、劇的進行が展開されるが…練習日誌の字数制限に抵触するため、あとはホームページの「練習録音」ライブでおたのしみあれ。

余談ですが筆者から一言。やさしい魚の「やさしさ」とは。語源の「痩す」つまり自らの身を削るほど他者を気遣うkindの方で、決してeasy=かんたんではではない。difficultの意味で「やさしくない魚」のタイトルとしました。なお、登場人物は特定の個人を想定したものではありません。
さらに、練習後のOB総会では、もっとスリリングな心理戦が展開されたのですが、録音が残っていないので、千人近いOBのうち現場に居合わせた数十名のみが知り得るところとなりました。
To be continued 

作:Lonely Baseman

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