「さすらう若人の歌」は、20世紀の作曲家・指揮者として活躍した、グスタフ・マーラーによる、低声とピアノ(もしくはオーケストラ)伴奏の連作歌曲集である。

自身が、カッセル歌劇場の補助指揮者時代に恋した、女性歌手への報われない想いに触発されて作曲されたと言われているが、はたして真相は‥? 興味のある方は、ぜひマーラーの波乱に満ちた生い立ちを調べてみることをおススメする。

 

曲は、「彼女の婚礼の日には」「朝の野原を歩けば」「燃えるような短剣をもって」「彼女の青い眼が」の4曲からなる、究極のナルシストともいえる男の物語である。

1曲目―恋人を失った悲しみを呟いている。この世の美しさについて語るものの、すぐにそれは悲しい夢と気づかされる。

2曲目―恋人の婚礼の、さわやかな朝。草も鳥も朝の自分に挨拶をしてくれる。なんと清々しく、そして素晴らしい世界なんだと感じる。しかし、恋人が去ってしまった以上、「自分の人生に花開くことなんて‘決して’有り得ないのだ!」と気づいてしまう。

3曲目―そして絶望の境地、彼女を思いもがき苦しむ男。胸に刺さったナイフ、“O weh!”という断末魔の叫び。さらに「銀のような彼女の笑いが聞こえる」という妄想が、男に付きまとう。

4曲目―男は振り返る。彼女のまなざしにどんなに自分が苦しめられただろう。もうこの地にとどまることもできない。やがて男は菩提樹の下に横たわり、やすらかに思う。「すべては、また素晴らしいものに。愛も、悩みも、悲しみも、夢も。何もかも…」そして、男が行きつく先は?

 

音楽的には、有名な交響曲1番「巨人」で使われる親しみやすいメロディーが随所に顔を出しており、マーラー特有の毒気!(いい意味で)をきっと堪能できると思う。

また、歌曲にしても合唱編曲にしても、男声のメロディーを耳にすることが圧倒的に多いが、今回の混声版では当然多くのメロディーラインを女声が担当する。究極のナルシストであるこの‘男’の「落胆」「憎しみ」「叫び」を、アカデミーOB合唱団の女声陣がどう表現していくのか…、これも聴きどころのひとつ?!

 

最後に余談、こちらも興味ある方はぜひ。

近年のソーシャルメディアの発達は我々の認識を大きく改めた。この「さすらう若人の歌」も、動画共有サイトで検索すれば、D.フィッシャー=ディースカウの名演のみならず、小編成オケ版、さらには第4曲のアカペラ合唱版など、中古レコード屋で掘り出し物を探さなくても貴重な演奏が聴ける。便利になったものだ。